今年は閏年なので一日早くなった。
母に腕時計をひとつ貰った。
止まっていたので、電池を交換しに近所にある時計修理店へ向かった。
生協に行く途中、いつもお店の前を通り過ぎていた。
表は何も改修されていない町家なので、hipな若い人が経営されているのだろう、と思っていた。
少しだけ開いていた引き戸から滑り込む様に中へ入った。
中は様々な壁時計と置き時計で埋め尽くされていた。
ご主人は60代の男性で、白衣を来ておられた。
時計を渡して置かれていた椅子に座った。
待っている間、普段聴き慣れない音に耳を澄ませた。
こんなに沢山の時計が時を刻む音を聞いたのは初めてだった。
午後5時になった。
数分の間、様々な音を奏でながら時を知らせていた。
10分くらいして、ご主人が「終わりました。」と言って立ち上がった。
「一度も電池交換をしていなかったみたいですね。
電池が溶けていたので交換を終えるのに時間がかかりました。
電池の寿命は約3年です。
切れたら2年以内に交換する様にしてください。」
と言われた。
母は殆どその腕時計を身に付けずに仕舞っていた様である。
お店から貰って来た名刺には
「残り1%の希望の店」
と書かれていた。
きっと腕の良い時計修理屋さんなのだと思う。
ずっと止まっている懐中時計を持って行こうか、とふっと考えた。
一度直すと毎日ネジを巻かなければいけなくなる。
怠るとまた壊れてしまう。
時を刻むためにあるのだから動かすべきなのだけど、
時計として使用する事はなさそうである。
とても気に入っているので手放す事はない。
ただ愛でるだけにしようと思い直した。
職場では腕時計の使用は禁止されている。
いつの間にか身に着ける習慣が無くなってしまった。
この休みの間、外出する際に腕時計を着ける様にした。
時間の感覚がおかしい自分を現実に引き戻してくれるので
安心出来るのである。