瑞麗さんはフランス人学校へ通っていた時、万年筆を使っていた。
鉛筆は殆ど使っていなかった。
万年筆で書く瑞麗さんの字が好きで、前の職場のシーズナルスクールで制作した、作品の見本に使わせて貰ったりした。
京都の学校から、カナダ、そしてインターナショナルスクールに通っている間、主な筆記用具はシャープペンシルだった。
フランス人はcursiveで書くみたいである。
作家のNさんが書いた文章には、流れる様な美しい文字が並んでいた。
瑞麗さんがカナダへ戻る前、四条烏丸にあるSUINA室町に行った。
バスが来るまで、涼みに入っただけのつもりだった。
瑞麗さんが本を一冊手に取り、必ず読むから買って、と言った。
日本語の本を読んでくれるんだ、と嬉しくなり承諾した。
そして文具コーナーに2人で移動した。
レターセットなどの様々な文房具の中に、万年筆が並んでいた。
瑞麗さんが主に使っていたのはLAMIの製品だった。
替え用のカートリッジはあったのだけど、万年筆は見当たらなかった。
インクだけ置いているって不思議だね、と2人で話しながら、
きれいな色の万年筆を手に取り眺めていた。
これが欲しい、と薄紫の透明な万年筆を瑞麗さんが見せてきた。
書き心地がとても良い、と書かれていた。
交換条件をつけて、購入することにした。
万年筆はすぐ渡さなかった。
瑞麗さんが出発する朝、ラップをかけたお昼ご飯の横に万年筆の箱を置いておいた。
帰宅して、瑞麗さんが万年筆で書いたメモを見つけた。
もっと大きな紙に書いてくれたらよかったのに、と思った。
明くる日、授業が終わってから文具コーナーへ行き、瑞麗さんと同じ万年筆を購入した。
使ってみたらとても書きやすい。
長らく持っていた、万年筆の印象が変わった。
拙い文章でも、少しだけ品格が出ているように見える。
これから手紙はこれで書くことにしよう。